スウェーデン独自の異端感染対策と日本の対策の類似点

マスクを奨励しない。強制的なロックダウン(都市封鎖)をしない。基本的感染対策を国民が自ら意識し、実行する事によって、経済活動を一切止めない。レストラン・バー・学校・映画館・スポーツクラブも開いたまま。スウェーデンの独自路線の新型コロナウイルス対策は世界で注目されてきた。しかしこの異端感染対策の根本には意外と日本と類似した点がたくさん見えてくる。

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専門家集団・公衆衛生庁

スウェーデンでは独立性が保証されている「公衆衛生庁」と呼ばれる公的機関が新型コロナ対応に当たっている。この専門家集団は憲法で「中央政府の外」に設置されている。「政府や議会は公的機関の独立性を尊重し、介入してはならない」としっかり明記されており、公衆衛生局は政治の影響を受けないのだ。したがって、公衆衛生庁に勤務する専門家が推薦する政策がスウェーデンではそのまま実現されてきた。

この公衆衛生局の打ち出した最初の感染対策は社会的距離(ソーシャルディスタンス)の確保、50人以上の規模の集会や高齢者施設への訪問の禁止など、いくつかの規制もしくは順守事項はあったが基本的には国民の自主的な判断や行動に任せるという点では、日本と類似した対策が選択されていたともいえるだろう。

なぜマスクの着用義務はないのか。ロックダウンをしないのか。

欧州諸国でマスク着用の義務化が広がる中で、スウェーデン公衆衛生庁はマスク着用を奨励してない。その理由はマスクする事で慢心し、ソーシャルディスタンスをとらなくなっては意味がない。マスク着用により、どの程度の感染が防げるかは明らかではない。マスクを正しく使う為に1日数回の交換が必要で、貧困層には大きな出費であり不平等が発生すると説明。マスク着用によってウィルスの蔓延を防ぐという科学的な根拠がないのがマスクを着用しない理由だという。よってマスク着用に関してはしたい人がするというように国民の自由意思を尊重している。

パンデミック当初からスウェーデンではロックダウンを行わなかったヨーロッパ全体で唯一の国。ロックダウンを行わない理由については、有効であるというエビデンスがない。短期的には効果があってもウイルスはまた拡大していく。だとしたら長く続けられない。憲法の縛りで実行できない。の3つの理由。国民が長期に渡って耐えうる対策を行うべきだという専門家の意見が背景にある。であるなら国民の意思で徹底的な社会的距離を保ち。死亡リスクの高い70歳以上の人たちを徹底的に守ることに重きを置いた。人々を家の中に閉じ込めれば、うつや自殺、治療の先延ばし、失業など、子どもと大人の双方に長期的な悪影響が広がる懸念がある、という判断だ。

憲法の縛りで国民の移動は禁止できないというのはどういう事か。

政府がそもそも国民の移動を制限することは、憲法上できなかったのだ。個人の移動の自由に関しては、同国の憲法第2章「基本的自由及び権利」第8条 において、「すべての人は公的機関による自由の剥奪から保護される。その他、スウェーデン市民である者には国内を移動し出国する自由も保障される」と明記されている。すなわち、平時の条件下で、国内および国境を越えたスウェーデン国民の完全な移動の自由を保障している。非常時における国民の移動制限が憲法の条文に入っていないのは、スウェーデンが1814年以降戦争を行っておらず、長く非常事態がなかったためである。つまりは当局が行っているのは、あくまで日本同様「お願い」であり、「命令」ではない。スウェーデンの法律では、政府が人々に外出禁止を強制したり、勧告に違反した者に罰金を科したりすることはできないのである。

しかし第2波で感染拡大・医療崩壊

こういった対策の元、2020年の夏、欧州で感染の再拡大が始まり、各国が第2波に苦しむ中で、10月頃までスウェーデンでは感染者がそれほど増えなかった。一時は、第1波で感染者が多かったために集団免疫を獲得したのではないか、との見方もあったが、ここにきて第2波で新規感染が急増。今、首都ストックホルムの救急医療の対応能力が追いつかない。集中治療室の使用状況は100%を突破。ストックホルム地域の病院の集中治療室は完全に埋まっている、と同地域の医療担当責任者ビヨルン・エリクソン氏は記者会見で語った。「集中治療室の使用状況は100%をはるかに超えて、能力の2倍に近づきつつある」。さらに看護師の大量離職で医療はさらに逼迫。残念ながら、状況はこれからもっと悪くなるだろうとみられている。ストックホルム南総合病院の集中治療室で働く心臓専門医カリン・ヒルデブランド氏は「次週以降どうなるか、私たちみんなが恐れている。対応できるスタッフが足りない」と話す。

感染対策の方向転換

大半の専門家は第2波が来るとは考えていなかった。ステファン・ロベーン首相は専門家は第2波の可能性を過小評価しすぎていたと語った。遠回しにではあるが、政府が専門家集団を初めて批判した瞬間だ。そして公共交通機関での混雑時のマスク着用を始めて推奨。これまで比較的穏やかな対策にとどめてきたが、方向転換を図り打ち出した新たな対策では、これまで8人までに制限されていた飲食店での会食も4人まで。午後8時以降の酒類提供も禁止する。学校の一部休校。高校ではオンライン授業を行う。店舗やスポーツジムなどでは利用数の上限を設けるが、首相は「これで期待された効果が得られなければ、一時閉鎖も検討する」としている。さらにスウェーデン政府は感染拡大次にロックダウンや休業を命じられるようにする緊急事態法の取りまとめを進めている。

公衆衛生庁とスウェーデン政府の関係は今。

今やスウェーデンのコロナ対策では政治家の関与が強まり、テグネル氏率いる公衆衛生局はコロナ対策で全面的に采配を振るうことは許されなくなっている。テグネル氏が政治家と調整を行わなければならなくなる場面も増えた。ロベーン首相と公衆衛生庁のテグネル氏の発するメッセージの食い違いも、混乱に拍車を掛けている。スウェーデンのコロナ対策に本当に欠けていたのは、強制措置ではなく、明確な方針だったのではないか。政府が国民に示す指針に問題があったため、指針が十分に守られなかった。感染が拡大したのではなく、明確な指針が与えられない事により国民の意識の緩み、これが原因だったとの見方もある。

スウェーデンの規制は以前より強化されたとはいえ、ヨーロッパの他国に比べるとまだ緩く、これでは足りないのではないのか、といった懸念が国民の中にも強まっており、政府に批判的な人々からは、もっと厳しい措置ともっと明確な指針を求める声があがっている。専門家の中には「ロックダウン」を言葉にする者もいる。マスク着用に関してもマスク着用を推奨していない民主主義国は、全世界を見回してもスウェーデンだけだ。世界では170を超える国がマスクの着用を推奨している。それでも、この国の当局はマスクの効果は科学的に十分に証明されていないと言う。ばかげている。と苛立ちの声もあがっている。

スウェーデンのコロナ対策は特徴あるものだった。しかしいくつかの日本との類似点を見出せる。どの国の対策も歴史的背景や国民性の事を理解しなければ一言で評価したり非難したりはできない。スウェーデンは歴史的に国民の政府への信頼は絶対であり、科学的根拠に基づく政策決定である事を理解して、国民はこれに協力してきた形と言えるだろう。当初から新型コロナの影響が長期にわたると考えて持続可能な政策をとるという方針に沿ったものといえるが、国民の移動の自由、専門家の意見の尊重、地方分権といった法律上の規定、共稼ぎ社会といった社会構造、自主性を尊重する国民性など考慮し学校、公共交通機関、経済活動を継続したまま、最低限の法的規制や勧告を行うという難しいバランスを保とうとしてきたのだろう。

われわれは、今後も新型コロナウイルスと共存していかなければならない。各国で実施されている感染対策は、その国の文化、歴史的背景、社会的資本、法制度や医療制度の違いなど理解し、多面的に知見を増やしてから必要に応じて参考にしていくことも感染対策として有益と思われる。そのうえで、日本にとっての最善の在り方を今後、検討し模索する必要があろう。

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