
イギリスにはMinister of Lonliness「孤独問題担当大臣」が存在する。
(現在Diana Barran, Baroness Barranが就任)
世界でなお続く新型コロナウイルス感染症パンデミックの下での封鎖措置により、たくさんの高齢者や大人、子供までが隔離状態となる事が多く、「孤独」が健康を阻害する「現代の伝染病」として、各国で対策に頭を抱えている。
少し前になるが菅総理が田村厚生労働大臣を「孤独問題担当大臣」に任命する国家でのやり取りが話題になったが、世界ではすでに様々な取り組みが行われている。
孤独問題先進国・イギリス
公的医療(NHS)診療が無料の英国では、地域の初期診療を担う総合医療医GPのもとを訪ねる。
予約が取りづらいという難点もあるが、孤独に悩んで医師に話を聞いて欲しいと受診するケースがロックダウン以降、増加傾向にあり、その診察の2割は「医療」が必要なのではなく「社会的処方」が必要であるという事からこの孤独問題担当国務大臣らは23年までに全国の健康医療システムに「社会的処方」を適用する方針を決めた。
つまりは総合医療医GPが医療ではなく「社会的処方」が必要だと判断すれば、「リンクワーカー」に連絡。
リンクワーカーが孤独な人のニーズに合った地域活動への参加を手配したり、ケアを受けたりできるよう調整したりするのだ。
2020年度からは小中学校で「Mentor」「Wellbeing」「Mindfulness」と呼ばれる時間を積極的に取り入れており、トラウマ・不安・孤独に対しての理解を子供たちに指導している。
自分の人の感情を理解する、それを受け入れ、感情のコントロールをするトレーニングや自尊心を育て、相手の話を聞くトレーニングをし、相手を尊重し合う人間関係を築く学びが行われているのだ。
これらの学びは社会問題にもなっている自殺者の増加に対しても子供の頃からのトレーニングによって対応できる力を養うことも目的とされている。
こうしたサポートシステムにおいてはイギリスはまさに先進国と言えよう。
その他、特に高齢者向けは実に手厚く、孤独を感じる高齢者の電話を受け、会話をする「シルバーライン」がある。
すべての運営費は民間の寄付や宝くじの収益金などで賄われており、24時間365日対応するのは資金的にも人員的にも容易ではないが、特に深夜やクリスマスなどのホリデータイムには孤独を感じる人が増えるという理由から夜間や休日でも受け付けている。
たくさんのボランティア団体
イギリスには探せば、その他たくさんのボランティア・チャリティー団体が存在する。
ただし、こういった団体を頼って電話をかけてくるのは圧倒的に女性が多い。
これは男性に孤独な人が少ないということを意味するものではなく、男性のほうが自分が孤独であることを認めたがらないという傾向があるからだそうだ。
女性は開口一番に自分の気持ちを話し始めるが、男性は一見、全く関係のない質問から始まり、話が進む中で、「妻が亡くなり」「仕事を辞めて」などといったように不安を打ち明けるようになるという。
孤独を不安に思う気持ちは自分の弱さを認めること。
「男らしさ」という価値観に縛られがちな男性は、孤独を肯定的に受け止めて対処しようとするか、寂しい気持ちを押し殺そうとするケースが多い。
そういった観点から、自らサポートを求めて、動こうとする人が少なく、男性のほうが深刻な孤独の問題を抱えやすくなっている。
そんな男性たちが上手に、自主的につながりの輪に参画できるような試みが次々とボランティア団体によってあみ出されている。
男性は面と向かっておしゃべりをするより、ゲームやスポーツ、仕事など何かを一緒にすることでコミュニケーションしやすいという人も多い、であれば「一緒に何かをする場」を作ればいい、という発想で「居場所づくり」が進められているのだ。
Men's Shed
たとえば、Men’s Shed(男たちの小屋)。公民館のような場所の一角に、DIYの道具を集め、そこで一緒にモノづくりをするという趣向だ。モノづくりを一緒に楽しむばかりではない。
楽しむだけでなく、以下のような「仕事」をこなすのだ。
①地元の小学校などに頼まれて、ベンチなど必要なものを作ってあげる
②作った作品を週末の地元のバザーで売って、住民とのつながりが生まれる
③場所を活用して、障害のある子どもたちに工作などを教える
といった機会が生まれ、孤独だった人がみるみるうちに生気を取り戻していく。
「自分が人の役に立っている」という意識がなによりの生きがいになるという。
この動きはオーストラリアやアイルランドなど世界でも広がっており、生きがい再生基地として、注目を集めている。
特徴的なのは、老若男女の多くのボランティアが活動を支えていることだ。
孤独な人が、こうした活動に参加し、役に立つという感覚を得ることで、自らの孤独を癒やすという効果もあり、まさに「支え合い」を通じて、社会としてのつながりと人々の生きがいを取り戻そうという壮大な実験を展開している。
イギリスは孤独で寂しいという人を誰も置き去りにはしない。誰かが寄り添う社会にしたい。
こうした取り組みはそういった強い覚悟の表れなのである。
「1人で不安だ、寂しい」という感覚そのものは、心身に大きなストレスを与え、心臓や脳などあらゆる病気を招くリスクを高めるとされ、早死にする確率が50%上昇するという。
短期的に不安な気持ちに耐えなければいけない場面も多々あるし、そこから学び取ることも多い。
しかし、それが、数カ月、1年、10年と長期化、慢性化することが大きな問題なのである。
「孤独は空腹やのどの渇きと同じ」だ。
不安な気持ちは身体からの「人とつながりなさい」というサインであり、無理やり自分の中でなだめつけたり、我慢するものではない、ということだ。
孤独に対処するためには「つながること」「アクティブでいること」「奉仕活動など、役に立とうとすること」「気づくこと」「学び続けること」などの視点が大切ではないだろうか。
今、世界が対策に乗り出す中で、日本だけが、出遅れてはいないか。
スペインやデンマーク、ノルウェー、アイルランドなどさまざまな取り組みが存在するが、共通していたのは、社会が一丸となって取り組むべき課題であるという認識だ。
孤独の不安を抱える人に対して、「自己責任」と突き放すのではなく、その気持ちに寄り添い、解消するためのインフラ・環境づくりが社会として急務だととらえられている。