原因不明の肺炎を訴え続けた中国の医師・李 文亮氏の存在が残したもの

新型肺炎の感染が拡大した2019年末、武漢でこの新型のウイルスに関して注意喚起を行ったとある医師がいた。彼は医療関係者として内部告発した最初の数人のうちの1人であり、この肺炎の犠牲者の1人でもある。2020年2月7日未明、この世を去ったこの医師とは、武漢市中心医院の眼科医だった李文亮氏(享年34歳)。

医師の投稿は「こんにちは皆さん。私は武漢中心医院の眼科医。李文亮です。」で始まる。

同僚を守るために

李医師は武漢市で働いていた2019年12月異変に気付く。
2003年世界的エピデミックを起こしたSARSに似たウイルスによる7つの症例を見つけたのだ。
それら7名の患者は李医師の勤めていた武漢中心医院で隔離されていたという。
この時点で既に、このウイルスは武漢市の魚市場「華南海鮮卸売市場」で売られていた生きた動物が発生源と考えられていた。
2019年12月30日李氏は同僚に周知。李医師はチャットグループに入っている同僚の複数の医師に対し、アウトブレイクが起きているかもしれないと警告するメッセージを送信し防護服を着用して感染を防ぐようアドバイスした。
この時、李医師はまだこれが新しいウイルスによるものだとは知らなかった。ましてや、世界の人々をパニックに陥れようという図もなく、同僚を守るためにとった行動であった。

感謝されてしかるべき行為が

2019年1月3日。その4日後、李医師が受けたのは称賛ではなく、中国公安省の職員の訪問だった。李医師の元を訪れ、書簡に署名するよう求めてきた。
その書簡は李医師を「社会の秩序を著しく乱す」「虚偽の発言をした」として告発する内容だったという。
そして李医師に言い放った。「我々は厳粛に警告する。こうした違法行為を続ければ、お前は裁かれることになる。」

1月初め、当時、中国・湖北省武漢市の当局者は、この原因不明の新型の肺炎に関する情報を秘密にしようとしていたという。武漢市の当局者は新型ウイルスに感染した動物に接触した人のみに感染すると主張しており、医師の感染を防ぐ指導はされていなかった。

自らもコロナに感染

警察が李医師を訪ねた後の1月6日。李医師は緑内障を患う82歳の女性患者の治療を行ったのだが、この女性患者が新型ウイルスに感染しており、その後死亡。
1月10日。李医師は咳をし始めて翌日には発熱があり、2日後には入院する事になったとウェイボに経緯をつづった。
その10日後1月20日中国政府は新型ウイルスのアウトブレイクについて緊急事態宣言を出した。
さらに10日後の1月30日に「陽性」が判明。李医師は再び「ウェイボ」に投稿。
この投稿には数千ものコメントや応援の言葉は集まった。そして感染して約1ヵ月。2月7日、李医師は新型ウイルスによる肺炎で帰らぬ人となった。

中国政府の反応は

2020年3月5日。原因不明の肺炎の発生に警鐘を鳴らしたつもりが、逆に処分の対象になり、訓戒を受け、自らも新型コロナウイルスに感染し死亡した医師に対し新型肺炎の抑制に模範的に行動した英雄だと称賛され中国政府に表彰された。

中国政府の最高の監察機関である国家監察委員会の調査チームが、李医師の死から1か月以上経った、3月19日、調査結果を発表。
調査チームは「処分は不当だった」と結論づけ警察に対し訓戒書の取り消しと関係者の責任追及を求めた。だが本当の狙いは、単に医師の名誉回復ではない。
この調査結果に対し、ネット上では「真相が明らかになった」「国家を信じ、調査結果を支持する。李先生安らかに」などと賛辞が寄せられている。
もっとも中国では政府の判断に反対する意見がネット上に残るはずはないが、人々の批判の矛先を逸らすという本来の狙いには、まずまずの効果があったようだ。
しかしこの調査報告には重大な「口封じ」が招いた結果についてに触れていない。
李医師の発信が「社会の関心を集めた」などとしているが、訓戒によって李医師が口をつぐんでしまった事態が招いた結果についての検証がされていない。その結果とは「情報隠し」が引き起こした感染拡大だ。

さらには当時の経緯を語り、もし発信し続けていれば「このような多くの悲劇は起きなかった」と後悔する女性医師のインタビュー記事は、発表直後、すぐに削除された。
習近平国家主席が感染拡大後、初めて武漢を視察した2月10日の出来事である。

必要なのはさまざまな声

健全な社会に必要なのは様々な声である。
李医師は人から人への感染は明らかに存在する。SARSと症状の似ていたこの新型の肺炎を目の前にして、とにかく臨床業務についている人に予防をするよう知らせたかった、アウトブレイクを起こす事が非常に怖かったとインタビューで答えている。
続いて人々が真相を知ることこそが大切で、自分の汚名を返上することはそれほど重要なことではない。
正義は人々の心の中にあるのだから。回復したらまた第一線に立つ。
現在もウイルスは拡散しているので、脱走兵にはなりたはない。と李医師は答えたが、願わずこの世を去った。

中国はどこまでWHO調査団に協力するか

新型コロナウイルスの感染経路を解明するためにWHOの調査団が中国に入っているが、中国がどこまで調査に協力してくれるかにかかっている。
発生から1年以上も経過してから調査をして何が出てくるのだろう・・・

いずれにせよ、このウイルスの自然宿主と考えられるコウモリを調査することも決まっているが、コウモリから人に感染せず必ず中間宿主がいるはずだ。
動物から人に感染を始めたばかりの新型コロナウイルスが、いきなりこれほど人に適合して中国・武漢で見られたような効率のいい感染爆発を起こすとは思えない。どこかで小規模の流行があって、インフルエンザと勘違いして見逃していた可能性もある。
少なくとも、武漢の海鮮市場で人への感染が始まったという情報には疑問がある。

感染経路を突き止めた1968年の香港風邪だが、カモ由来のウイルスがアヒルなどの家きんを経由してブタに感染し、同時に人のアジアかぜウイルス(H2N2)に感染したブタの体内で、この両方のウイルスが交雑して生まれたのが、H3N2の香港かぜであることが実証されている。
2009年の新型インフルエンザウイルスも、メキシコかアメリカ南部のブタを介して生まれたことがわかっている。

全世界でブタの感染を注視しておくことが、新型インフルエンザウイルスの出現予測につながる。だから感染経路・伝播経路の解明は大切なのだ。重症急性呼吸器症候群(SARS)もコウモリが自然宿主だというのは確かかもしれないが、中間宿主が分かっていない。

李医師の存在が残したもの

将来、医師は感染病の兆候を発見した時、早期に警鐘を鳴らすことをもっと恐れてしまう可能性があるのでは・・・と李医師が英雄を祭り上げられた後も、李医師への中国国内の出来事に懸念を示している人は多い。
より安全な公衆衛生の環境のためには何千万人もの勇気と知性を持った李医師のような存在が必要だ。
彼の地域社会と世界のために正しく勇敢なことをしたという李博士の名前を覚えておくべきであり、李医師の言うように健全な社会に必要なのは様々な声をもっと開放的に透明性のある社会。
中国当局が以前に流行に関する情報を開示していれば、もっと感染拡大は防げたにちがいない。

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