
感染力が通常株より最大7割も強いとされる新型コロナウイルスの変異株が猛威をふるうイギリス。新規感染者数が毎日5万人以上が続き、コロナ入院患者が恐ろしいスピードで急増、患者の年齢もぐっと下がり、重症例も増え続けている。さらには入院から死亡までの期間が短くなったという。ロンドンの一部の地域では20人に1人が感染しており、総死者数は世界で5番目の多さ、8万人を超え(1月11日現在)恐らく10万人は超えると予想。これまで医療崩壊を起こさずに耐えてきたイギリスの医療体制ももはや限界。最後の選択肢「緊急トリアージュ」つまり、命の選別が始まっている。
ボリス・ジョンソン首相は今月4日夜、レベルが最も高い「レベル5」を宣言し、イングランド全土で学校閉鎖を含む3度目の都市封鎖(ロックダウン)を宣言。そして8日にはロンドン・カーン市長は感染力が強い新型コロナウイルス変異種がもはや制御不能となり、市内の病床数が今後、数週間で限界に達し、病院が対応できない恐れがあるとして*「重大インシデント」を追加宣言した。3社のワクチンが承認された今、一刻も早く多くの人へのワクチン接種が急がれているのだが。
日本のメディアではイギリスでは医療崩壊は起きていないと伝えられている。確かに。これまでの政府の懸命な対策によって、イギリスの医療体制は日本とは比べものにならない莫大な感染者数に問題なく対応してきた。しかしこの変異種によってあれほど強固だった医療体制が制御不能な状態となり、イギリスの医療現場では、とうとう生命の選別を意味する緊急トリアージが始まったという。
ロンドンの病院の一部では救急車の搬送を停止している状態。既にコロナ病棟はキャパシティーを大幅に超えており、一般病棟を急きょ救命救急病棟にしてコロナ患者収容ベットを増やしている。看護師や医師にクリスマスも新年もなかった。懸命に1つでも多くの命を救おうと今も戦っているが、看護師も限界を超えた状態で、不安や恐怖から病棟で涙する看護師の映像がSNSやメディアに流れている。しかしこうした彼らの努力もむなしく一部の病院は現在、集中治療を必要とするすべての患者の緊急トリアージについて英国立医療技術評価機構(NICE)のガイダンスに従うことを余儀なくされているのだという。つまりは・・・ICUで優先的に治療を受けられるのは65歳以上の高齢者や虚弱な患者ではなく65歳未満の虚弱ではない患者だ。虚弱な患者や高齢者はその代わり一般病棟に収容される。生存の可能性が最も高い患者を優先するための緊急措置。生命の選別。最も恐れていた事態が今、イギリス・ロンドン中心の病院では起こっている。
日本とイギリスでコロナに対する対策も患者の受け入れ基準も異なる。医療体制の仕組みも全く違うので簡単に比較することはできないが、日本でも昨年10月にすでに、重症者や重症化リスクのある者に医療資源の重点をシフトするため、入院の対象を65 歳以上、呼吸器疾患、臓器や免疫の機能が低下している患者、妊婦、重症、中等症の患者に絞っている病院もあると聞く。酸素吸入が必要なコロナ患者しか入院できないというのが現状なのだ。日本で感染者ほどに重症者が増えていないのは実は人工呼吸器を着けさせてもらえないということ。以前は呼吸不全に陥った重症の高齢者が入院してきたら人工呼吸器を着けて治療していたが、今は医師が家族に"このまま看取りましょう"と言ってあきらめさせ、一般病棟で看取っている。こうした患者は重症を経由せずに死亡にカウントされる。だから重症者は増えない。人工呼吸器は助かる見込みのある患者のためにとってあるのだと言う。
これは、未曾有の危機に直面しているロンドンの病院で行われている緊急トリアージ・生命の選別ではないだろうか。日本でもイギリス同様にとっくに医療崩壊は起きているのではないかと思う。
今、日本でも緊急事態宣言が出された。1度目は緊急でない緊急事態宣言。2度目は緊急感のない緊急事態宣言。2度目のこの緊急事態宣言も手厚い補償のない規制にも関わらず日本人は粛々とそれに従い耐える。日本人は恐ろしく忍耐強く、本当に素晴らしい人種だと思う。しかし一部の人間は、規制を無視し、自分勝手に外出をしているようであるが、このイギリスで起きている医療崩壊の惨状は彼らにとっては所詮は他人事「対岸の火事」なのだろうか。
日本でも、今回の感染者の急増はもしかしたら、日本国内でも変異種が存在するのではないかという議論もあると聞く。もちろんこれはまだ、エビデンスのない議論なのだが。もし変異種なのだとしたら、甘く見ない方がいい。日本の若者が「ただの風邪だ」と発言していた。そう思うならそう思えばよい。だが自分が”ただの風邪”を発症する事で自分の生命が救われた分、生命のトリアージュが行われ失われる命がある事を考えてみた事はあるか。これまで医療崩壊を起こさず必死に耐えてきたイギリスの医療体制が崩壊している現実を目の前にして何を思うか。政府は自分の大切な人の命を守るために・・・と発信し続けている。日本も引き締めて緊急事態宣言を受け止めていくべきであろう。イギリスは2週間後にピークが来るとみられている。
*重大インシデントは通常、攻撃や重大事故の発生時に指定され、特に「重大な被害、損害、混乱、または人間の生命や福祉、不可欠なサービス、環境や国家安全保障に対するリスク」などがある事態に適用されるものである。