我々の祖先が経験した感染症パンデミックはどう終わったのか・・・

Covid-19 パンデミック。今を生きる誰もが経験したことのない事態がいまだ進行中である。ワクチンによってこの厄介な感染症の収束を世界中で大勢の人々が願っているが、今でも残念ながら私たちの先祖が闘った感染症の多くが、撲滅されないまま残っているのだ。我々の祖先もいくつかのパンデミックを生き延びてきた。彼らが経験した過去のパンデミックがどうやって収束したかを見ることによって私たちの今後がどうなるのか、何かヒントが得られるだろうか。

腺ペスト

最初のアウトブレイク(集団感染)は西暦541年にまでさかのぼる。約60世代前の我々の祖先たちは、リンパ節の腫れを引き起こすこの感染症・腺ペストのアウトブレイクを何度か経験している。過去3回に渡りパンデミックを起こしたまだ撲滅できていない感染症。ペスト菌は特定のげっ歯類の間に広がり、ネズミに寄生するノミが媒介するバクテリアや、感染者が放出する飛沫が、大被害をもたらした。ペストがどのようにして終息したのか正直、明らかではない。

寒さで病気を媒介するノミが死滅したか。(しかし飛沫感染による感染経路は残るはずだ。)19世紀までに、ペスト菌はクマネズミではなくドブネズミを宿主とするようになった。ドブネズミのほうが強く、獰猛(どうもう)で、人間から離れて暮らす傾向がある為、ペストを媒介するネズミが変わったからか。細菌の力が弱くなったからか。または厳しい隔離と衛生状態の改善などが要因か。様々な要因が考えられる。

ペスト菌はこの約2000年の間に総死者数・2億人以上の命を奪った。現在でもペストの発生は続いている。過去に大勢の命を奪ったものの、現在では被害の規模は小さく、抗生物質で十分な治療が可能だ。現在は584人(2010年―2015年)世界人口は時代と共に大きく増加した。人口が今より少なかった当時の病気は、今よりはるかに甚大な影響を社会に与えたと思われる。

天然痘

我々の先祖たちは次は天然痘に直面する。記録されている最も早いアウトブレイクはペストから数百年後の1520年。天然痘ウイルスが原因のこの病気は、感染者の鼻や口からの飛沫や発疹から感染し、全身に水疱(すいほう)性の発疹ができる病気で、最も激しいアウトブレイク時には感染者10人中3人が死亡していた。天然痘ウイルスは動物では媒介されない為、人間の間で病気がなくなれば完全に根絶された事になる。症状も非常に明確な為、隔離がしやすかった事も幸いしたといえる。イギリスの医師エドワード・ジェンナーが1796年に開発したワクチンと、その後200年かけた専門家たちの努力によって、今では天然痘ウイルスは完全に撲滅された。

ペストと同様、天然痘の総死者数は少なくとも3億5000万人にものぼる。こうして人間の努力によって人間がかかる感染症が撲滅できたのは、いまだに天然痘のみ。

コレラ

さらに1817年。わずか8世代前に我々の祖先はコレラの脅威に直面。現在まで各地で複数のアウトブレイクがいまだに貧しい国に発生している。WHOによると、コレラ菌は汚染された食べ物や飲み物が感染源となるこの伝染病のパンデミックは過去7回発生し、たくさんの命を奪ってきた。今ではコレラにはワクチンがあり、治療も比較的簡単だ。コレラ対策で大事なのは下水道。下水処理がうまくいかないとコレラはあっという間に広がる。よって欧米では衛生状態の改善によってコレラのアウトブレイクはほぼ発生しなくなったものの、多くの貧しい国では今なお頻繁に発生し、これらの総死者数は推定4000万人。毎年10万~14万人が死亡。今もなお大勢が命を落としている。

インフルエンザ

1800年代から繰り返されるパンデミック。我々の祖先はインフルエンザのパンデミックもたびたび経験してきた。特に被害が大きかったのは20世紀初頭。我々の曾々祖母父の時代だ。H1N1ウイルスが原因となった「スペイン風邪」が1918年と1920年にかけて感染が2回拡大したインフルエンザ・パンデミックは、近年で最も被害が甚大で、全世界で5000万~1億人が亡くなった。現在の新型コロナウイルスと同様、隔離が感染拡大を抑制。このH1N1の株は弱毒化し、今もなお毎年変異をしつつ流行している。1968年の「香港風邪」では約100万人が亡くなり、2009年、H1N1ウイルスの一種が原因の「豚インフルエンザ」では世界人口の21%が感染した。我々はいまだに季節性インフルエンザには感染する恐れはあり、今後もパンデミックを経験するかもしれない。

スペイン風邪の総死者数推定5000万人以上。現在の死者数、季節性インフルエンザで最大65万人。季節性インフルエンザによる死者は今も続く。

HIV/エイズ

たった約40年前、1981年に始まった我々の両親はHIV/エイズの感染が拡大する時代を経験しており、今なお続く感染症。人間の免疫系を攻撃し、高い致死率のヒト免疫不全ウイルス(HIV)は、主に体液を通じて伝染するが、潜伏期間も長く感染してもなかなか気づきにくい。これまでに世界中で3200万人以上が命を落としている。HIVを完治する方法はまだないものの、医療体制の整った国では診断技術の進歩に加え、抗ウイルス剤を使う事ができる。また世界的な啓発運動によって性行動の変化や薬物利用者の安全な注射利用が広がり、感染拡大は抑制できるようになってきた。それでも、WHOによると2019年には推定69万人がエイズで死亡した。これまでの総死者数3200万人がHIV/エイズで死亡した。

SARS/MARS

これは皆の記憶に新しいであろう。2002年と2012年、対応が比較的に楽だったSARSやMERSの脅威がやってきた。重症急性呼吸器症候群(SARS)は、コロナウイルスによる最初の深刻な大規模感染だった。WHOによると2002年から2003年にかけて「SARS-COV」と呼ばれるSARSコロナウイルスは、2003年に特定されたが2003年7月下旬の時点ですでに新しい感染者の報告はなくなり、WHOは世界的な大規模感染は収束したと宣言した。SARSの総死者数813人。それから間もなくして、中東呼吸器症候群(MERS)の感染が拡大。これもコロナウイルスによるもので、912人が死亡。アラビア半島での感染がほとんどだった。「MERS-COV」と呼ばれるウイルスに、たとえばイギリスで感染するリスクは非常に少ないものの、中東で感染する確率は今も高い。人間は多くの場合、ラクダから感染する。

COVID-19

2019年から現在。今の社会で活動する前例のないCovid-19ウイルス は、ウイルスや細菌といった新しい病原体が長年にわたり引き起こしてきた様々なパンデミックの、最新の形だろう。「SARS-COV-2」と呼ばれるこのウイルスは、2012年SARSウイルスの進化形で症状が軽いものから死に至るものまで多岐にわたることや、未発症の人の感染性が高いなど非常に特異なウイルスで多くの地域で抑制に失敗している。今現在での総死亡者数100万人以上が亡くなったが、被害の全体像はさらにひどくなる見通し。

終わりはどうなる・・・

1つ忘れてはいけないのは過去のパンデミックで人間社会を脅かした病原体のほとんどは、まだ居座っていて、個々のパンデミックは収束しても、ウイルスやバクテリアや、それによる感染症はまだ残存している。過去のパンデミックの収束をみてくると、医学的な収束であり、感染症への知識の向上、公衆衛生の啓蒙活動、新しい治療法やワクチンの開発などによって疾患率と死亡率が大きく減少し、複数の要因が重なっての結果がパンデミックを終わらせてきたといえよう。

懸念すべきは社会的な収束である。病気に対する恐怖心が薄れ、人々は長引く厳しい規制などによって極度の疲労やフラストレーションから、まだウイルスが猛威をふるう中、ワクチンや効果的な治療法が開発されていなくても「もう普通の生活に戻っていい」と振る舞いを始めるという。すでに1年近く、厳しい規制の行われているイギリスでもそれは既に起こり始めている。経済状態が壊滅的になっていくにつれ、規制を無視して営業再開し始めている店舗が出始めた。同じく規制を無視して人々はマスクをせずに街をいつも通りに歩いている。学校も閉鎖中の若者は大勢で公園にたむろし、もはやCovid-19 とは無縁の生活をしている。これは緩みではなく社会的な収束が始まっているように見える。それと引き換えに我々は大勢の死者数を出すという事を特筆しておきたい。罰則規制のない要請だけの日本においては、いまだに日本人の真面目にパニックを起こさず粛々と要請に応じる国民性で何とか防いできたが、今後、起こり得る可能性は多いにある。

現在のパンデミック収束も医学的な収束であってほしい。社会的な収束にならない事を祈る。

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