
新型コロナウイルス感染症では、感染しても約80%の患者が無症状か軽症で済む。
重症化しやすいと言われているのは肥満、高齢者や基礎疾患のある患者だ。
約15%は重症肺炎になり、約5%は致死的なARDS(急性呼吸促拍症候群)という呼吸不全に陥りICU(集中治療室)での治療が必要になる。
新型コロナウイルス感染症において「重症化」というのは、この5%を指すのだが、さらに重症化から回復しない場合、数日のうちに呼吸不全は呼吸困難へと進行し、深刻な炎症に陥った心肺は機能しなくなるため、ECMO(エクモ)という人工心肺装置を装着。
ここまで至ると、残念ながら8割方の患者は命を落としてしまうらしい。
では軽症と重症の分かれ道となる要因は何なのか。
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その答えはサイトカインストームだった
「サイトカインストーム」とは。
免疫細胞が出す「サイトカイン」という物質は、免疫細胞同士が互いに協力したり、ウイルスとの戦いを有利に進めたりするために使う。
しかし、サイトカインにはガソリンのように危険な側面もあり、サイトカインによる炎症はまたたく間に広がると、血圧が上がったり、血管を傷つけることで血栓を作り、心筋梗塞や脳梗塞にもつながり、心肺が機能不全を起こすほどの肺炎となる。
その「やり過ぎ」の状態がサイトカインストーム。
インフルエンザでも起こりうることだが、新型コロナウイルスはとくに起きやすことが脅威となっている。
本来、わたしたちの身体を守るはずの免疫細胞が嵐のように暴走し、全身に炎症を引き起こす免疫の過剰反応が、この感染症の重症化の原因なのだ。
そして、このサイトカインストームにおいて、もうひとつ炎症を悪化させるファクターがあり、それが、「免疫ブレーキの故障」だ。
免疫の働きが正常な状態であれば、ウイルスの感染に対して免疫応答、つまりは、ウイルスなどの外敵に対処する免疫細胞の一連の反応が行われたあと、免疫細胞たちに「撤収」を呼びかける細胞がいる。
それが、「レギュラトリーT細胞」。
免疫細胞たちを制御することが役目のこの細胞が正常に機能すれば、サインカインストームは制御される。
しかし、新型コロナウイルスに感染し、重症化した患者の血液中からは、このT細胞全般が極端に減ってしまっていることがわかっている。
ではなぜT細胞が減少してしまうのか。
原因はまだまだ研究途上だが、ふたつの理由が想定されている。
1.どうやら新型コロナウイルスは組織細胞だけでなく、免疫細胞であるT細胞にも感染し、減少させている可能性があると考えられている。ただこれはまだ仮説の段階で、今後の研究が待たれる。
2.基礎疾患や生活習慣の乱れ。
免疫細胞はわたしたちの身体から生み出される、身体の一部分であるため、健康状態を悪化させるような生活習慣や、基礎疾患による臓器の不調があれば、免疫細胞も不健康となり、正常に機能しない。
不健康が重症化を招く
これらの要因のなかでも、基礎疾患や生活習慣の乱れによる"不健康"がレギュラトリーT細胞減少の原因となっている点は、極めて注目すべき項目だ。
なぜなら、もう多くの人が知っているとは思うが、実際に国内外における新型コロナウイルスの死亡者の多くは、肥満症、あるいは糖尿病や高血圧などの基礎疾患を抱える患者であるからだ。
こうした重症化の仕組みからわかるのは、新型コロナウイルスへの対処においては、外からの感染予防のみならず、自らの身体を"健康"に保ち、レギュラトリーT細胞を含む免疫細胞が適切に活動できるような免疫力を維持することが非常に重要である、ということなのだではないだろうか。
・肥満
ではなぜ、肥満者は重症化しやすいのか?
感染症になると、炎症性サイトカインの分泌が増え、ストレスにより、血中のインスリンのレベルが高くなりやすくなる。
肥満自体もさまざまな代謝異常に関連している。
インスリン抵抗性や炎症などの代謝性の疾患は、感染症への耐性を低下させ、体がウイルスと戦うのを難しくしてしまう。
・基礎疾患
糖尿病そのもがCOVID-19の重症化を促し、また、COVID-19の感染によりインスリン抵抗性が強まり、糖尿病が悪化しやすくなる可能性がある。
・高齢者
高齢者では、免疫システムが老化しており、免疫応答も加齢とともに衰える免疫老化が起こる。ウイルスに対する警告信号が遅くなっているおそれがある。免疫反応が遅いと、体内でウイルスが増えやすくなるのだ。
高齢者は高血圧や糖尿病、腎臓病などの基礎疾患をもっていることが多い。
驚くべき原因は男性?
新型コロナには重症化しやすい人としにくい人がいて、高齢者や持病を持つ人はリスクが高いことはわかった。ただ、この2つに加えて、あまり注目されていないリスク要因がある。男性であることだ。
重症化リスクに男女差があることは、様々な国のデータがある。
中国のCDC(疾病対策センター)が実施した感染者約4万5000人の調査では、感染者数に占める死亡者の割合は男性で2.8%、女性では1.7%。
米国のCDCの発表では、1月上旬までに亡くなった約31万人のうち54%が男性だった。
日本の統計でも、年代別に見た致死率はほぼ全ての年代で男性の方が高い。
英国ロンドン大学などの研究チームは世界約50カ国で発表された約90報の報告をもとに、重症化や死亡のリスクが男女でどのように違うかをまとめた。男性は女性に比べ、重症化して集中治療室に入るリスクが約3倍高く、死亡する確率も約1.4倍高かった
ちなみに男性の方がウイルスに感染する機会が多いということはない。
こうした差が生じる最大の理由は免疫の違いにあると考えられている。
一言で言えば、女性の方が免疫応答が活発なのだ。
女性の性染色体であるX染色体上に、免疫に関わる遺伝子が多く存在していることが関係している。
重症化のメカニズム解明は、さらなる治療法の向上につながる心強い成果だ。
ただ、急激な感染拡大が医療機関の対応能力を上回れば、行うべき治療法がわかっていても施せない事態に陥ってしまう。
さて、ここで。ビタミンDが新型コロナの発症や重症化を防ぐのではないかという仮説をご存じだろうか。
ウイルスは自分の細胞を持たない。
人や動物などの細胞に入り込むことで増殖しようする。
その過程で、ウイルスを排除しようとして免疫が反応し、大量のサイトカインが産生され、その結果、一定の炎症反応が現れる。
これに対して、ビタミンDが十分にあれば、炎症反応を抑える作用が期待できるというのだ。
どのような仮説で、そのエビデンスとは。
それは次回のコラムでご紹介できればと思う。