イギリスは医療が税金で運営され、基本的に無料で受けられる。そしてその中心役となるのがNHS(National Health Service)という日本でいうと厚生労働省に当たる機関である。医療者はNHSと契約をむすび、NHSが医療費の支払者になっている。そしてイギリスの特徴としてあげられるのがGP(General Practitioner)制度。これは前のコラムでご案内した。With Covid-19の時代、今、イギリスは医療体制転換期であり、驚くべき第2ステージへと準備が進められている。

Contents
二次・三次医療(NHS)
- 通常医療を再開。
- がん患者の為の新型コロナウィルスフリーの環境を確保するため病院再編成を行う。地域の病院の一つをまるごとがん専門病院へと転換、もしくは既存の病院内の一部をコロナウィルスフリーの環境にする。
- すべての病院に現在備わっている遠隔医療に必要な装備を利用し、電話やオンライン診療を可能な限り切り替える。
- ナイチンゲール病院は潜在的なニーズに応えれるよう維持する。
プライマリケアー(GP)
- 予防接種、がん検診を含め日常的な予防サービスを再開。
- すべてのハイリスク患者に積極的に連絡を取り、必要なケアへのアクセス方法、薬が入手できているかなどを確認し、必要に応じて在宅医療の提供。また週1回の介護施設へのバーチャル診療を行う。
- 通常通り患者を二次・三次医療(セカンダリー)の専門医に紹介。GPのアドバイスのみで適切に完結可能と判断される場合は、プライマリーケアでのやり取りにとどめ、患者の二次・三次医療の専門外来への受診をできるだけ減らす。
- オンライン診療やオンライントリアージの導入を完了する。
トータルトリアージ
患者や医療者への感染リスクを最小化するため「トータルトリアージ」というアクセス方法を採用。
1)患者が診療所に電話、受付が患者の話を要約し、先着順にリストを作成(緊急性が高い場合は優先的に対応)。
2)診療所や自宅からリモートワークしている医師がリスト上の患者に1件ずつ電話をかけ直す。
3)必要に応じて写真の送信やビデオ診察といったオンライン診療を行う。
しかし、この形の受診方法では2)と3)のプロセスに時間が取られ、患者にとって二度手間になりうる。GPは仕事量が増え、Covid-19パンデミック以前より忙しくなっているという。この問題に対しての改善策として今注目されているのが新しい受診方法オンライントリアージシステムである。
オンライントリアージ
医師と患者との二度手間を省くための最新システム
1)GPホームページ上にあるオンライントリアージシステムを用いて、患者が症状や相談を入力する(または患者がGPに電話し、受付が代わりにそのシステムに入力も可)。
2)すべての相談事はGPのスタッフ(非医療者)が確認し、臨床的な相談は医療者に振り分け。
3)医療者がそれを確認し、相談内容に応じてオンラインメッセージ、電話相談、ビデオ診察、対面診察の中から最も適切な手段を選ぶ。
いかがだろうか。もちろんこれらの診療内容は個々の電子カルテに入る。このオンライントリアージュシステムを採用することによって、GPに送られる依頼の25%はオンラインメッセージのみで完結されるという報告があるという。
このシステムはすでに始まっている。筆者もトータルトリアージシステムをロックダウン1.0の間に利用した。GPへの電話から約1時間後に担当医から連絡が入り、ビデオ診療の後、筆者の希望する薬局にオンラインで処方箋が渡った。30分後には直接、薬局で薬が手に入り、以前に比べて非常に合理的で便利な医療サービスに驚いた。
このようにCovid-19パンデミックを機に合理的な医療政策を取ってきたイギリスであるが、更に進んだ医療システムが計画されているという。それがBabylon Health。AI搭載型アプリによる診断サービスだという。24時間ドクターと話せ、処方箋ももらえ、診察予約もできるようになる。
バビロンの最大の顧客は英国のNHSで、今ロンドン市民が一般のGPからバビロンのサービスに切り替えているという。AIの診断結果の精度の高さも相当なもので一般的な開業医(研修医)よりは優秀という数字が出ているというではないか。
これまでの、ある程度のアクセスを犠牲にしつつも、GPの専門性と評価制度で品質を確保、成果を出しているのがイギリスの医療制度の特徴。GPを中心に地域特性を生かしたプライマリケアを提供している点については評価をうけている。合理的な意思決定がなされてきた結果の医療制度という印象を受ける。
感染状況・医療システム・人口。違いがあって一概に比較はできないが、欧州での医療制度改正の対応から日本ではどんな教訓が得られるのだろうか。