英国が欧州最大の新型コロナの被害をだしてしまったのはどうしてか

世界トップクラスの科学者が集まるイギリスでは新型コロナウイルスの総死者は10万人を超えた。アメリカやブラジル、インドなどの大きな国に次いで世界で5番目に多い。
保健関連の英国シンクタンク・キングスファンドによると、イギリスでは2020年の1年間で、過去5年間の平均を基にした年間予測を8万5千人近く上回る約69万7千人が死亡した。年間予測に対する超過率は14%で過去75年ほどで最大、2000年代で最悪の超過死亡だ。
この超過死亡の比率に使用された数値は11月までのもので変異種による12月の急増した死者数は反映されていないにも関わらず、ヨーロッパのほとんどの国やアメリカよりも多いのだ。どうしてか。

高齢者の超過死亡

今では考えられない事であるが、パンデミック当初、病院のベッドを空けるため陰性検査を実施せず高齢のコロナ感染者を介護施設に送り返していた。その結果、超過死亡の半数以上を高齢者介護施設の入所者が占めるという大惨事になったのだ。
筆者の友人も日本で看護師だった経験を活かし介護施設で働いている。彼女が第1波の時に話していた。
食事介助をした高齢入所者が5分後にはソファーで息絶えているというような事が毎日起きており、あっという間に入所者は3分の1になったという。日本では救命救急を担当し、言い方は悪いが、たくさんの修羅場を経験をしてきている彼女でさえ、とても怖いともらしていた。
驚くべきことに第一波の死者数の30%はこの高齢者施設での死亡者である。

都市封鎖(ロックダウン)が遅れた

昨年3月23日から行った都市封鎖が1週間早ければ第1波の犠牲者を3万6700人から1万5700人に減らせたと感染症数理モデルのスペシャリスト、インペリアル・カレッジ・ロンドンのニール・ファーガソン教授率いるコロナ対策チームは報告している。これははじめに集団免疫を目指すという方針をとっていた為、都市封鎖(ロックダウン)が遅れてしまった。

国境封鎖を避けた

移民が多いため国境を閉じにくいという事情はあったものの、昨年3月13日からほぼ3カ月間、国境措置は全く実施されず、早い段階において強制的な自己隔離、スクリーニングの強化、対象を絞った検査、強制隔離など、イギリスへの到着者に厳しい要件を課すのを考慮しなかったことは重大な誤り、十分な水際対策がなされなかったことは「致命的なミス」と専門家からは指摘されている。
これに対して、内務省の広報担当は「決定はすべて科学に基づき、安全を確保するための正しい対策が正しいタイミングで行われた」と、正当性を主張。内務委員会は、パンデミック初期に国外に住む多くの英国民を帰国させるために国境を封鎖しなかったことを支持したが、特定の国からの入国者に対する制限をもっと早めに実行すべきだったと付け加えた。
英国では2~3月にかけて、武漢市のある中国湖北省、韓国、イラン、イタリアからの入国者に対して14日間の自主隔離を導入。しかし内務委員会は、アジアの国々を十分に警戒したものの、ヨーロッパからの脅威に対して認識が甘かったことを指摘した。
また英国では、国外からの旅行者のうち症状が見られない人の自主隔離が解除され、同時に英国内の全ての人(国外からの入国者も含む)に対して、症状が見られる人は自主隔離をすることが決められた。それから10日後にロックダウンが始まったが、同委員会はこの対策に着目。科学的データを引き合いに出し、この10日間で何千人もの感染者が入国した可能性が高いとした。

マスクを軽視

当初、科学的なエビデンスはマスク着用による健康への悪影響を示しているとして、マスク着用の義務化が遅れた。ジョンソン首相がEU離脱ではなくコロナ対策に傾注していれば、マスクなど感染防護具を十分準備できていたはずだ。
ジョンソン首相が初めてマスクを着用してメディアの前に登場したのは中国、日本、インド、フランス、イタリアの指導者より3~5カ月遅く、トランプ大統領のわずか1日前だった。

社会的な根深い問題点

イギリス。特にロンドンの人口密度の高さは世界でも10の国の1つの入る。
続いて英国は最も肥満率の高い国の1つでもあり、英国死亡者数の約5分の1がイギリスの国民病の1つである基礎疾患・糖尿病だったという。既に英国公衆衛生サービスによっても日も肥満は死亡のリスクを2倍に高めるという事が言われている。
加えて格差社会がこういった健康レベルにも差があるという問題が浮き彫りになった。国家統計局のデータによると、貧困地域での死亡率は富裕地域の2倍だった。パンデミックは確かにこれを悪化させたようだ。

EU離脱に絡む政治的判断

イギリスは2020年12月31日でのEU離脱移行期間を終了させる事を同時に推し進める必要があった。その結果このコロナ渦、常にEU強硬離脱を主導した保守党下院議員に突き上げられ、厳格なコロナ対策より「経済」にこだわり続けたボリス政権。もしも。EU離脱という問題がなかったら・・・
EU離脱派のハンコック保健相でなく、医療現場の評価が高いEU残留派のジェレミー・ハント前保健相だったら、感染した高齢者を入所施設へ送り返すなどという事はしなかっただろう。
EU離脱による経済的な打撃を少しでも和らげたいジョンソン首相が集団免疫論に固執せず、科学者の警告に従い、都市封鎖を行っていたら、ここまで被害は大きくならなかったに違いない。
11月には第2波の急拡大を抑えるためイングランド全土で2度目の都市封鎖に入ったものの、12月に入ると早々と解除。しかし実際には政府はイングランド南東部での感染が急増している事には気づいていたのだという。2度目の都市封鎖を早期解除したのは下院の過半数を確保するためのジョンソン首相の政治的妥協だったという。

何が原因だったのかは公式調査で突き止めることになるだろうという。
どこの国においても政府は対策に頭を悩ましている。
どこの国においても政府の政策が批判されている。
専門家たちはパンデミックでのミスは命取りになると言うが、結局のところ、どれが正しく、どれが間違っているかは誰も結論づける事はできないだろう。しかし英国の初期の対策にミスがあったのは確かだ。

もしも。都市封鎖・ロックダウンが1週間早ければ2万1千人の命は助けられた・・・しかし決断は遅れた。
イギリスはインフルエンザ・パンデミックに備え、抗ウイルス薬のタミフルやリレンザ、マスク、ガウン、手袋を大量に備蓄し「パンデミック対策の質の高さで世界をリードしている」という慢心に陥っていた。
さらに無症状者が感染を広げるという「ステルス感染」への対応が後手に回り、水際作戦が突破され国内での新型コロナウイルスの感染リンクが追えなくなったら感染拡大のスピードを遅らせ、最終的に集団免疫を獲得するしかないという固定観念にとらわれてしまった。
追跡システムは混乱をきたし、政府が過去の間違いや他国の経験から学ぶ事をしなかった。
加えて社会の根深い問題にスポットライトを当ててみれば、肥満大国であり、貧しい公衆衛生状態の英国。
自らもコロナに感染し、死線をさまよったジョンソン首相は常にEU離脱と経済優先という矛盾した圧力にさらされて、妥協した判断を行ってきた。

イギリスがこれだけの被害をもたらす事となった失敗の本質は科学より政治にあると言わざるを得ない。政治がもたらした人災。
ジョンソン首相が政権維持のためEU強硬離脱派の顔色をうかがってコロナ対策の手綱を緩めることなく、謙虚に科学者の助言に耳を傾けていれば死なずに済んだ命は少なくない。科学軽視が、イギリスで被害を拡大させたのは間違いないだろう。
ボリスジョンソン首相は先日、「死者数を10万人を出した政策による失敗の責任は全て私にある」と潔く認めた。

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